京都府北部 新職業図鑑 “創職”先進地域・京都府北部で出会う、新しい働き方

京都府北部・京丹後市

丹後ちりめんの里でよそ者が地場産業に吹き込む風 ~自然が薫る染と織り~

堤 木象
京丹後市
ものづくり
伝統
山・森・里山

きっかけはアートプロジェクト。人との出会いから創作活動が始まる。

京都府北部の丹後半島にある京丹後市網野町は、日本標準時子午線上にある最北のまちです。染色作家の堤木象さんは、約30年前に行われたアートプロジェクトがきっかけで東京から網野町に移り住みました。
当時20代の堤さんは東京の美術大学を出た後、絵画を中心に芸術活動をしていたところ、知人でサウンドアートの先駆者である鈴木昭男さんが取り組むプロジェクトに参加することに。プロジェクトは子午線上で自然の音に耳を澄ますというもので、そのための装置として、日干しレンガのブロックを作り、巨大な壁を積み上げる作業を一年半かけて行ったのだそう。


染液に使われている「ヤシャブシ」そのものが描かれた丹後ちりめんの訪問着。

プロジェクトが終わるころ、地域の人との関係も深まり、そのまま移住することを考えていたという堤さん。その後、住居をお世話になっていた丹後ちりめんの織元の会長からの依頼をきっかけに草木染めや、商品の企画などを始められました。

描くのは土地の自然。使い手に自ら届ける本当の魅力。

丹後ちりめんは「白生地」と呼ばれる高級着物用の絹織物で、京都市内で友禅染などが施され初めて着物になります。その生産量は国内の生活様式の変化から1970年代をピークに下降の一途をたどり、長らく京都の下請けとして和装を支えてきた丹後では、デザインの力や自ら消費者に訴える活動が課題となっていました。「自分に出来ること、求められることは何でも取り組んだ」。
土地の外の目を持つ者としてより大きな危機感を抱いていた堤さんは東京銀座の百貨店での販売のチャンスを掴みます。丹後に自生するヤシャブシなどの植物を図案化し、採集した同植物から抽出した染液で染め上げた作品は好評を博し、この展示会で仲間の機屋たちとともに大きな成果をあげました。これは産地として画期的なことでした。

その後、同氏が代表する丹後の機屋チームは京都市内の百貨店での常設販売にこぎつけるなど、販路を拡げている。時に田舎独特の人間関係の難しさや閉塞感を感じることも少なくない。しかし、自ら選んだこの土地の暮らし。だからこそ「いい場所であってほしい」と願う。
野山に分け入り採取した「ヤシャブシ」は赤土でも繁殖するほど生命力が強いという。絹の真っ白なキャンパスに描かれたヤシャブシが、土地の人々が守り受け継いだ丹後ちりめんに命を与えるように静かな魅力を讃えていた。

PROFILE

堤 木象(つつみ もくぞう) さん

福岡県出身。山象舎(さんぞうしゃ)主宰。丹後に自生する植物より染液を抽出し、丹後ちりめんをはじめ丹後の絹織物を草木染する。図案化した植物を採集し、同植物から抽出した染液で染め上げる。同じく東京から移り住んだ妻の東かおりさんと二人で丹後の風土と染め織の技術を融合させた一点ものの染織品を創作している。 YouTube:https://youtu.be/wvmo_VVMvCQ

TANGO+(たんごぷらす) さん

発足当時から堤木象氏が代表を務め、丹後の若手職人チーム。織元ならではの技術を活かした商品づくりを行っている。男物着物「MISOGI」など新しい着物の提案も。京都市内百貨店では常設、東京都内の百貨店等でも販売している。

INFORMATION

参考URL日本遺産「丹後ちりめん回廊」
http://www.tangochirimen.jp/
TANGO OPEN
https://tangoopen.jp/

WRITER

日下部 暁

2014年 京丹後市役所入庁 2017年より商工観光部 商工振興課 配属。「丹後ちりめん創業300年事業実行委員会」事務局の一員として地場産業である丹後ちりめんをはじめとする織物産業の振興に従事。

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