たんたんターン 京都府

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Post Date / 2021.02.12 Fri

自然も仕事も仲間も、ここには何でもある。 広域の視点をもつことで見えた、京都北部7市町の可能性

京都移住計画(株式会社ツナグム)では、2018年度から3年に渡り、京都5市2町の広域連携UIターン推進をお手伝いしています。こちらの記事では、2020年度の活動をご紹介しながら、本事業を振り返ります。

丹後(宮津市、京丹後市、伊根町、与謝野町)・中丹(福知山市、舞鶴市、綾部市)を合わせたエリアを、「北部7市町」と呼びます。京都移住計画は、2018年度から3カ年に渡りUIターン推進事業を、「京都北部7市町」の、行政・民間プレイヤーのみなさんと進めてきました。

本記事は、2020年度の活動紹介に加え、3年に渡り京都移住計画が関わった「北部7市町」のUIターン推進事業を振り返ります。

行政と民間が混ざり合うことで、生まれた成果や気づきとは?各分科会から一名ずつ集まっていただき、語り合いました。

<話をしてくれた人>
観光分科会/工忠照幸さん(綾部)
起業・事業承継分科会/濱田祐太さん(与謝野)
コミュニティづくり分科会/杉本健治さん(伊根)
まちの人事部分科会/藤本和志(京都)

つながりから何かをはじめたかった頃

UIターン推進事業は、2019年から声がけした民間プレイヤーも加え、スタートしました。そもそも、どういう思いや課題感があり、この事業に関わったのでしょうか。

濱田:持続可能な地域づくりのためには、地域の課題を解決し、今ある産業を守ることが欠かせないと考え、「株式会社ローカルフラッグ」を立ち上げましした。課題解決するには、担い手となる地域のプレイヤーを、増やしていく必要があります。この事業が動き出した3年前は、ちょうどUターンする段階で。地域内で連携できる仲間や行政職員と繋がりをつくりたいと考えていたので、良いタイミングでしたね。

濱田くん

工忠:僕は地域の人に会いに行き、自分の暮らしを考えるツアー「天職観光」を運営しています。そのため当時から、行政との関わりもありましたが、行政は行政で独自に移住支援をしていました。

この事業に関わることで、行政からも地域の案内を依頼されることも増えましたね。僕が知らなかった綾部の移住者や、北部全域の移住者と知り合う機会にもなり、より移住検討者に近いライフスタイルの方を、ご案内できるようになりました。

杉本:濱田さんや工忠さんと違い、僕は日頃から移住支援に関わっているわけではありません。でも、地域にもっと仲間が欲しいとは思っていて。7市町と一言で言っても、各市町によって色が違います。移住する人が、自分に合う地域を選べる流れができたらいいなと想像していたので、関わることにしました。

杉本さん

藤本:今、お話にあった広域連携は、外から関わる京都移住計画の立場から見ていても、課題として感じていました。各市町に面白いプレイヤーはいるんだけど、関わりを持てていなかったり、緩くつながりはあるけどプロジェクトを一緒にするところまで踏み込めていなかったり。また、行政と民間のプレイヤーが、一緒に何かをするのをお互いが避けているようにも見えたんですよね。
UIターン推進事業のお話を頂いた時に、プレイヤー同士、行政と民間をうまくつなぎ合わせるような企画をつくりたいと考えながら、ゆるやかに事業を動かしはじめました。

藤本

官民協働の事業づくりを実験。4つの分科会で得たもの

手探りの中、行政と民間のコミュニケーション機会を設け、対話を続けた2018年度。

各市町にコーディネーターを配置し、官民協働プロジェクト「京都プロジェクト博覧会(通称:プロ博)」を実施した2019年度。

そして、2020年度は、「起業・事業承継」、「観光・ワーケーション」、「まちの人事部」、「コミュニティづくり」の4つの分科会に分かれ、事業づくりに取り組んできました。(今までの取り組みについてはこちら

ここからは、各分科会を一つずつ振り返ります。分科会は民間3〜4名、行政3〜4名で構成されています。

●プロジェクトを軸に、北部に関わる仕組みをつくる「コミュニティづくり」分科会

<メンバー>
杉本健治(もんどりや)、市瀬拓也(andon)、梅田優希(株式会社ローカルフラッグ)、塩見浩一(綾部市役所)、中村善之(宮津市役所)、森下弘理(舞鶴市役所)

「コミュニティづくり」分科会は、都市部で暮らす北部出身者のコミュニティをつくることで、北部に関わるプロジェクトにつながりをつくったり、参加者同士が関係性を築いていくことを目的としています。

今年度は、京都・四条にある「GOOD NATURE STATION」にて「KuraNomi in KYOTO」(2020年11月29日)を開催。都市部在住・北部出身の学生と共に、丹後地域の酒蔵、4蔵から厳選したお酒、与謝野ホップ使用クラフトビール「ASOBI」、地域の加工品を販売しました。

杉本:きっかけは、2019年度の「プロ博」でした。スナックを開いて北部の食を提供したら、参加者同士が自然と北部トークで盛り上がり、仲良くなっているのを見て、そんな場を今後もつくりたいと思ったんです。
移住イベントを開催しなくても、日常的に北部との関わりがあれば、Uターンしたい気持ちが醸成されていくのではと考えました。イベントで出会っても、その後関わる機会がなければ関係性は切れやすい。だから少人数でも固定メンバーで、プロジェクトを軸に継続的に関われる仕組みつくりたいなって。
そこで、地域の食材を事業者さんから手数料を頂いて、都市部で販売するモデルを試しました。出会った人同士で仲良くなったり、「こんなこともやりたいね」と今後の話が出たりもしてます。今後はメンバーの話を聞きながら、彼らがやりたいこともサポートできる環境をつくっていきたいです。

●地域の雇用を生み出すプレイヤーを育成、「起業・事業承継」分科会

<メンバー>
宇田川鎮生(西田工業株式会社)、大滝雄介(株式会社大滝工務店)、
濱田祐太(株式会社ローカルフラッグ)、市田恵美(福知山市役所)、上柳晋作(宮津市役所)、三井雄太(京丹後市役所)

「起業・事業承継」分科会は、地域を担うプレイヤー人材を育成する仕組みをつくるため、「京都北部ローカルベンチャースクール」の立ち上げ準備中です。今年度は、リサーチに重点を置き、活動しました。夏から秋にかけて、先進拠点の視察。2020年10月31日にはプレイベントを実施し、北部で何か新ことを仕掛けたい方が集まる機会をつくりました。

濱田:これまでの移住定住の取り組みは、田舎暮らしをしたい人や小商い文脈の個人事業主を対象にしたもの中心でした。一方、起業したり家業を継いで新しいチャレンジをしたりしている人たちは、まだまだ少ない。そんなことを「プロ博」で、運営メンバーの大滝工務店の大滝さんや、西田工業の宇田川さんと話をして、分科会をつくりました。
一年動いてみて分かったのは、コミュニティをつくることの大切さです。有名な方の講演会を開催するのではなく、同じタイミングで移住した人同士や、会社を設立したタイミングが近い人同士で、切磋琢磨し、気軽に相談できる場があることが、プレイヤー人材を増やす上で、一番大切な資産になると感じています。現在は、来年度に向けて、「初めて従業員を雇う時に気を付けること」「銀行との付き合い方」などを身近な先輩経営者から、リアルな話を学べるプログラムを開発中です。

●「観光」分科会

<メンバー>
工忠照幸(MATATABI)、市瀬拓也(andon)、辻井貴之(京都府職員)、堂田久美(舞鶴市役所)、原口圭介(綾部市役所)、梅本里沙(伊根町役場)

「観光」分科会は、もともと工忠さんが、綾部を中心に活動していた「天職観光」の取り組みを、京都北部全域に広げようとしています。行政や他団体によるガイドとの差別化、コース作成、価格設定をディスカッションしながら決めました。また天職観光のガイドコミュニティをつくりました。まちを案内する人が収益も得ながら関われ、移住検討者が自分にあった暮らし方ができるまちと出会える仕組みづくりを目指します。

工忠:観光で一番楽しいのは、人に会うことだと思います。京都なら寺社仏閣に行くように、与謝野町の濱田くんなど人に会いに行くことも観光資源の一つになるはず。そう思い、まちを案内しながら地域の人と交流できる「天職観光」をしています。
まちで出会う人は、ガイドによっても変わってきます。僕らや行政にガイド役を限定せず、まちに案内できる人が増えれば、移住検討者も自分に合うまちを見つけやすくなるはず。各市町にはそれぞれの魅力があるので、この事業で出会ったメンバーで連携しながら、面的にフォローできるようになりたいです。

●「まちの人事部」分科会

<メンバー>
濱田祐太(株式会社ローカルフラッグ)、梅田優希(株式会社ローカルフラッグ)、藤本和志(京都移住計画)、寺田武史(福知山市役所)、坂根あゆみ(与謝野町役場)

「まちの人事部」分科会は、まちの案内と仕事探しを一体化した移住支援の形をつくろうとしています。地域の移住コーディネーターが就職や複業などの仕事も案内できるようになる。また、地元企業や人事担当者も移住コーディネーターのように、まちの案内や暮らし方のサポートができるようになることを目指すものです。
今年度は、京都北部の企業数社をお呼びし、「企業×移住」の可能性を探る意見交換や、UIターン者採用や人材育成に力を入れている企業をモデルにした勉強会を実施しました。

また、2020年11月28日は、北部の企業をゲストにオンラインイベント「地域企業が仕掛ける『職住』を両方楽しむ選択とは?」を開催。学生や若手社会人など約30名が参加し、まちと企業の理解を深め、つながる機会を設けました。

藤本:京都府の移住コンシェルジュとして、年間1000名以上の移住検討者の相談を受けています。その中で、最もネックとなるのが仕事。約9割の人が会社員として相談に来られる中、起業や小商いと言っても自分ごとになりにくく、縁もゆかりもない土地で収入源をどう作るかが見えないと、移住につながらないと課題に感じていました。それを解決するのが、「まちの人事部」のモデルです。
「移住やIターン」は別物として捉えている企業もあります。移住=農業、田舎暮らしではなく、UIターン者の企業での採用活動も移住施策の一つだと捉え直し、興味をもちアプローチしたいと思ってもらえたのは大きな一歩でした。また、せっかくUターンしても、会社と家の往復だけしている人もいるとの話も聞くので、職住一体の取り組みによって地域や事業に関わるIターン者と混ざり、まちに面白い人が居ることを知ってもらえば、定住にもつながると考えています。

プロジェクトを通して見えた、広域連携の可能性

こうして4つの分科会に分かれて、活動をしていきた2020年度。プロジェクトを進める中で、官民連携のポイントや7市町としての可能性も見えてきたようです。

報告会の様子。

杉本:最初は、行政と民間のスピード感や進め方の違いに戸惑いました。物事はなかなか進まないし、僕らなら「やっちゃえばいいやん」って思うことにも、慎重で。でも、打合せなどをなんども重ねることで、分科会の「KuraNomi in KYOTO」イベントの頃には、積極的に提案したり動いたりしてくれるようになり、行政側の変化を感じました。また僕自身も、行政の方々がどんな思いやルールで動いているのか知る機会になり、見え方が変わりましたね。

「起業・事業承継」や「観光」分科会では、行政と組んだからこそ生まれたメリットもあったのだとか。

濱田:福知山市役所まちづくり推進課の寺田さんが、福知山の企業を紹介してくれたんですね。Uターン者も毎年10名程度採用されている企業なのですが、分科会のメンバーは誰も知らなくて……。行政の方と一緒に動くことで、接点がなかった企業とつながる機会になりました。また民間だけで動くと、自分たちが知っている範囲で声をかけやすい人に声をかけがちだという課題に、改めて気づくことができましたね。

工忠:「観光」分科会でも、同様のことがありました。「天職観光」などで日頃から移住支援の活動をしていますが、綾部市内全ての移住者を把握できているわけではありません。特に僕は、綾部は塩見直紀さんが提唱した「半農半X」に惹かれ、「X」を伸ばしたい集落暮らしをしたい人との出会いは多いのですが、地方都市的な暮らしをしている人に出会う機会は少ない。行政は、幅広く移住者を知っているので、情報量も増えましたし、移住検討者にご案内する先の選択肢も増やすことができました。

工忠さん

行政と民間それぞれが、お互いの仕事の進め方や得意を知ることができた機会になったことに加え、市町村単位ではなく「7市町」として広域で地域資源を捉え直す機会にもなったそうです。

濱田:7市町ぐらいのサイズで見ると、「だいたい何でもあるんだ」とこの事業を通して思いました。与謝野町だけだったら足りないものはたくさんあります。でも集結すれば地域を盛り上げるプレイヤーも複数いるし、仕事もある。連携都市圏で考えるって、すごく大事だと気づきました。

工忠:うん、僕も広域連携の魅力を痛感しました。内陸の綾部に、海の幸はありません。でも、7市町に広げるとカニやブリをはじめ四季折々の食べ物に恵まれています。冬になれば雪も積もる。京都市内から1.5〜3時間で行けるんだから、わざわざ北海道や長野へ行かなくても府内で十分に楽しめるよって(笑)

杉本:7市町にはそれぞれの色があり、移住者もスタイルが違っているのがいいんだって思えるようになりました。関西圏で移住を考える人が、きっと自分のライフスタイルに合うまちに出会えると思います。

藤本:僕は仕事やプライベートで、全国各地を巡ってきました。その中で思う7市町の魅力は、逆説的ですが、有名なまちづくり事業者がいるわけでも、ビジネス的な人がいるわけでもないところだと考えています。今日、各市町によって人や場の良さがあり、それらを面的に補い合えるプロジェクトの話を聞いて、みんなでつくるエリアが7市町の魅力だなと改めて実感しました。
これからも、まちの面白い活動に光を当てて、移住の入り口から関係づくり、雇用できる体制まで結びつけていける仕組みを、一緒につくらせていただけたら嬉しいです。

2018年度から株式会社ツナグムとして関わらせていただいた、京都5市2町の広域連携UIターン推進事業は、この3年間で「官・民」が一緒になり動き、中長期で町へ人が入ることの仕掛けを、中でつくる流れができてきました。

今後も、この官民連携の分科会形式でのプロジェクトの実証実験が、京都北部にある様々なテーマに展開しながら、広がっていくことでしょう。

その活動がまちへの愛着や仕事の種につながり、それがプロジェクトとなれば中の人から外の人にも伝わり、結果的にUターンや移住につながる。そんな町の中と外の接点をもっと増やして行けるよう、僕たちも京都北部を応援していきます。

記事の作成に関わってくれたクリエイター