たんたんターン 京都府

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Post Date / 2024.02.18 Sun

与謝野町での自然との関わり


江種さんに案内された場所は、庭の柿の木の下だった。廃校になった小学校からもらった椅子。石の机。自然物だけで構成された空間で、お話をうかがった。

【江種さんと与謝野町】

京都市内から与謝野町に移住した江種里榮子(えぐさりえこ)さん。

現在は、デザインの仕事に携わり「エグcafé」という移動式のカフェも運営している。

出会いは2015年。転職先をさがしていたときに、「与謝野町地域おこし協力隊」の募集を見つけたことがきっかけであった。

 

【与謝野町は木が育ちにくい!?】

初めて与謝野町を訪れたのは、面接当日であった。

「もっと与謝野町を知りたい」と、面接直前までサイクリングで街並みを見て回った。時期は8月。木陰のないサイクリングロードを走りヘロヘロになった。

与謝野町は2006年に野田川沿いの3町が合併して誕生した。サイクリングロードは旧加悦鉄道の跡で川に沿って伸びているが、周りには田畑が広がり樹木が少ない。江種さんが面接で「こちらは木が育ちにくい地域なのですか」と問うと、面接を担当した役場の職員は「こんなに山に囲まれているというのに木がないとはどういうことか」と首をかしげていた。

以前、住んでいた京都市の京都御所や鴨川などには広葉樹が茂っていて、市民の憩いの場になっている。通勤や買い物などには自転車やバイクに乗る機会が多く、街路樹の下を風を感じながら走るのは心地よい。地元の人たちはいつも車で移動しているから、木陰で一息つくという習慣がなくて、目的地への道すがらに感じる心地よさを知らないのではないか。採用通知を受けた後、意見交換する中で役場の職員からは「ずっと地元で生活していると見えないことがたくさんある」と聞いた。「ワクワクすることを一緒につくろう」。
そんな思いで地域おこし協力隊に加わった。

【多様な出会いが広げる視野】

着任してからは、地域づくりや町の活性化に向けた取り組みのほか、地域のイベントや森林整備などにも関わる中で、様々な出会いがあった。与謝野町は丹後ちりめんの産地。シルクを使った子ども服づくりの活動などをきっかけに織物事業者とつながったことで質感や風合いを生み出す技術の奥深さを知り、織物の魅力が広がった。米や野菜やその他の事業も同じで、作り手や提供する側の汗に魅力を感じた。丹後で暮らし始めて様々な作り手たちと出会い刺激を得られたことが、自身にとって大きな支えになっているという。

協力隊の任期を終えてからは、京都府が取り組む北部地域の商店街や商いの団体支援に一年ほど携わった後に起業、デザインの仕事を中心に、チラシやリーフレットなどを制作している。

青空カフェのような活動は協力隊の時から続けている。「夜明けのサイレントカフェ」は、天橋立を一望できる公園で、朝日を見ながら一服できる時間を楽しんでくれるお客さんとの交流を楽しんでいる。森の中の集落跡にある「千年椿」公園では、「森のカフェ時間」も開催している。山を登る道中も含めて味わってもらい、森の奥でコーヒーを飲みながら木々や自然と触れ合う時間を楽しんでもらっている。

 

【新たなトライ】

江種さんはいま、自宅の敷地内に交流拠点を創り出そうとしている。にぎやかな日常から離れ、自然の中の静かな別世界で、どこか守られているような居場所。いつもの感覚から一歩違う世界に入り込んで、素朴な気持ちやこころと向き合えるような場所。例えて言うなら、「千と千尋の神隠し」で登場する「銭婆の家」のような空間づくりだ。「地元の人か移住者か、遠くに住む人かどうかを問わずに集える仕組みを創りたい。絵本の中に心の拠り所を見つけるように、一人ひとりが心をほぐしてやわらかい気持ちになって、自分を見つめ直せるような場所を与謝野町に生み出したい」と語る。

【編集後記】

周りに山や草木が多いからといって、自然に触れているわけではないという言葉の意味もわかった気がした。自然と関わりながら自分のことや町のことを考える。とても温かく、気持ちの良い取材ができた。

 

取材者

太田 絢子(宮津天橋高等学校加悦谷学舎 2年)、黒瀧 晴(成美高等学校 1年)、中森 葵(福知山高等学校 1年)